
人手不足への対応が急務となる中で、短時間労働者が「年収の壁」を意識せず働くことができる環境づくりを支援するため、政府は、当面の対応として後述する支援強化パッケージを打ち出しています。
ここでいう「年収の壁」は、「106万円の壁」および「130万円の壁」を指します。 両者は年収がその額を超えれば保険料の負担が発生し、その分手取り収入が減少するため、これを回避する目的で就業調整が意図されるという点では共通していますが、前者の額は自身が健康保険・介護保険・厚生年金保険(社会保険)に加入する基準であるのに対し、後者の額は被扶養者に留まるための基準ですので、前者の延長線上に後者があるわけではありません。
| 106万円の壁 | 130万円の壁 | |
| 概要 | 社会保険の適用事務所に勤務するもので、雇用契約時に所定内賃金(※1)が月8.8万円(年収換算106万円)以上となると、社会保険が適用され保険料負担が生じる | 第3号被保険者(被扶養者)の年間収入の三個も医学が130万円(※2)以上となった場合(※3)、配偶者の扶養から外れ、国民年金・国民健康保険の保険料負担が生じる |
| ポイント | ▶厚生年金保険の給付や健康保険法上の傷病手当金等の給付が上乗せされる
▶手取り収入が減少する |
▶給付面は変わらない
▶手取り収入が減少する ▶運用において実態に即した取扱いとしている |
| 注意点 | 令和6年3月1日現在、厚生年金保険の適用対象者数(被保険者数)が100人以下の適用事務所に勤務している場合は対象外 | 問題となるのはあくまでも「年間年収の見込額」であり、年間累計ではない(EX.新卒の扶養削除日→就職日 4/1など) |
※1 毎月支払われる基本的な賃金を指し、時間外手当や家族手当、通勤手当、賞与などは除く。
※2 130万円には、所得税の課税・非課税(交通費など)を問わず、恒常的な収入が含まれます。
※3 今後1年間の収入を見込む際には、例えば認定時(前回の確認時)には想定していなかった事情により、一時的に収入が増加し、直近3ヵ月の収入を年収に換算すると130万円以上となる場合であっても、直ちに被扶養者認定を取り消すのではなく、過去の課税証明書、給与明細書、雇用契約書等と照らして、総合的に亮来収入の見込みを判断することとされている。
支援強化パッケージは、①106万円の壁への対応、②130万円の壁への対応、③配偶者手当への対応で構成されています。それぞれ詳しくみていきましょう。
短時間労働者が新たに社会保険の適用となる際に、労働者の収入を増加させる取組を行った事業主に対して、一定期間助成を行うことにより、壁を意識せず働くことのできる環境づくりを後押しするため、キャリアアップ助成金に「社会保険適用時処遇改善コース」が新設されます。
短時間労働者への社会保険の適用を促進するため、非適用の労働者が新たに適用となった場合に、「事業主」は、当該労働者の保険料負担を軽減するため、「社会保険適用促進手当」を支給することができることとされます(国や自治体から支給される給付金ではありません)。「社会保険適用促進手当」は、給与・賞与とは別に支給するものとされますので、原則として保険料算定の基礎となる標準報酬月額・標準賞与額の算定基礎とはされません。
被扶養者認定時、恒常的でない収入により130万円(※4)を超過している場合、過去の課税証明書、給与明細書、労働契約書などを確認しているところ、昨年10月以降は、これらに加えて、人手不足による労働時間延長などに伴う一時的な収入変動である旨、即ち、その超過が恒常的でない収入によるものである旨の事業主の証明を添付することで被扶養者認定が可能となり、被扶養者認定の円滑化が図られます。 ただし、この取り扱いは、その超過が恒常的でない収入によるものであるという理解を前提としていますので、同一の者について原則として連続2回までです。
※4 60歳以上または障碍者の場合は年間収入180万円が基準。
令和6年春の賃金見直しに向けた労使の話し合いの中で配偶者手当の見直しも議論されるよう、政府は以下の対応を実施します。
(1)中小企業においても配偶者手当の見直しが進むよう、見直しの手順をフローチャートで示す等わかりやすい資料を作成・公表する。
(2)配偶者手当が就業調整の一因となっていること、配偶者手当を支給している企業が減少の傾向にあること等を各地域で開催するセミナーで説明するとともに、中小企業団体等を通じて周知する。
■ 相談先
年収の壁・支援強化パッケージの問い合わせに対応するため、フリーダイヤルが設置されています。
| 年収の壁突破・総合相談窓口 0120-030-045 ※受付時間 平日8:30~18:15 |
■ 参考文献
・厚生労働省年金局「女性の就労の制約と指摘される制度等について(いわゆる「年収の壁」等)」(令和5年9月21日)
・厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」(令和5年9月27日)
・厚生労働省「「年収の壁」への当面の対応策」(令和5年9月27日)
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