割増賃金とは?労務リスクを見直そう

公開日: 2023年05月29日

昨今、労働問題への関心の高まりを背景に、第三者承継(M&A)において労務デュー・デリジェンス(以下、労 務 DD)が実施されることが増えてきました。労務 DD では簿外債務(貸借対照表には計上されていない債務のこと) を算出する過程で、割増賃金の未払いがないかを確認されます。そこで今回は割増賃金を解説します。

1.割増賃金とは?

割増賃金とは、一般に「残業代」と呼ばれており、個人開業医または医療法人が残業した職員に対して所定賃金 の他に支給するものです。以下では、割増賃金について、割増率、支給対象者、時効、固定残業代の順にみていきます。

2.割増率

割増賃金は、労働時間ごとに以下のように割増率が異なっているため、正確に理解しておくことが必要です。

労働時間 時間 割増率
所定時間外労働(法内残業) 1日8時間・週40時間以下 100%
時間外労働(法外残業) 1日8時間・週40時間超 125%
1か月に60時間超 月60時間を超える時間外労働 150%
法定休日労働 法定休日の労働時間 135%
深夜労働 22時~5時の労働時間 25%
時間外労働(60時間以内)+深夜労働 時間外労働+深夜労働の時間 150%
時間外労働(60時間超)+深夜労働 時間外労働+深夜労働の時間 175%
法定休日労働+深夜労働 休日労働+深夜労働の時間 160%

上記のうち、法内残業と法外残業は誤りやすいので注意が必要です。たとえば、時給 1,200 円、所定労働時間 1 日 7 時間とされている職員に 9 時間労働させたとすると、1 時間分の法内残業に係る割増賃金として 1,200 円の支 給と、1 時間分の法外残業に係る割増賃金として 1,500 円(1,200×1.25)の支給が必要です。

なお、法内残業に係る割増率は 100%でなくとも構いません。就業規則などで 100%以外の割増率で法内残業に 係る割増賃金を支給する旨を明確に定めたときはその割増率で法内残業に係る割増賃金を支給しても構いませんし、 法内残業に係る割増賃金を支給しない旨を明確に定めたときは法内残業に係る割増賃金を支給しないこともできます。

 

3.支給対象者

増賃金は残業した職員に対して支給しなければなりません。職員であれば、常勤・非常勤を問いません。もっとも、残業した職員であっても、看護師長や事務長など管理職(管理監督者)である職員に対しては、深夜労働に係る割増賃金以外の割増賃金を支給する必要はありません。また、理事(役員)は労働基準法の適用対象ではあ りませんので、一切の割増賃金を支給する必要はありません。

 

4.時効

割増賃金を誤って支給していたことが発覚したとき、割増賃金を再計算して支給しなければなりません。その場合、 いつの分の割増賃金まで再計算しなければならないかが問題となります。

この点、賃金請求権の時効は 3 年とされていますので、3 年前の割増賃金まで再計算しなければなりません。たとえば、賃金締切日末日・賃金支給日翌月 25 日であるクリニックにおいて、2023 年 5 月 1 日に 2019 年 5 月 25 日支 給分以降の割増賃金を誤って支給していたことが発覚した場合、再計算しなければならないのは 2020 年 5 月 25 日 支給分以降の割増賃金となります(2020 年 4 月 25 日支給分の割増賃金は 2023 年 4 月 25 日に時効が完成しています)。

なお、賃金請求権の時効が 3 年とされているのは、労務 DD において調査される期間が過去 3 年分の割増賃金(を 含む賃金)であるということを意味しています。

 

5.固定残業代

割増賃金はあらかじめ定額払いすることも認められています。定額払いする割増賃金を、「固定割増賃金」や「固 定残業代」と呼びます。たとえば、その職員に毎月 18 時間程度の残業が見込まれるのであれば、あらかじめ基本給 などと一緒に 20 時間分の固定残業代を支給しておくといった具合です。クリニックにとって固定残業代の支給には 割増賃金の計算が簡便化されるというメリットがあります。

固定残業代は無制約に認められるわけではなく、その導入や運用において一定の要件を満たす必要があります。そ こで固定残業代の導入にあたっては事前に専門家(弁護士や社会保険労務士)に相談することをおすすめします。

 

 

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