ベースアップに係る社会保険上の留意点

公開日: 2024年05月27日

「ベースアップ評価料」の新設に対応するため、職員給与のベースアップをご検討中の先生は多いかと思います。そこで今回はベースアップの実施にあたり、予め押さえておくべき社会保険上の留意点を解説します。

1.ベースアップとは

そもそも「ベースアップ」とは何でしょうか。 ベースアップ(以下「ベア」といいます。)とは、賃金表の改定などにより賃金水準を引き上げることです。たとえば、従前、3等級5号俸が200,000円であるところ、それを210,000円に引き上げるといった具合です。 また、賃金表がない場合は、就業規則や労働契約に定める基本給などを引き上げることをいいます。たとえば、従前、個別労働契約において基本給220,000円としていたところ、それを230,000円に引き上げるといった具合です。なお、賃金表はそのままに、3等級8号俸から4等級1号俸というような格付けの変更は「定期昇給」にあたりますので、ベアにはあたりません。

 

2.社会保険料

ベアを実施したとき、ベア後の賃金を支給した月から4か月目に社会保険料の計算に用いられる報酬の月額(「標準報酬月額」)が変更されることがあります。 この変更を「随時改定」といいます。 毎月の社会保険料は標準報酬月額に料率を乗じることにより算出しますので、標準報酬月額の上昇は社会保険料の増加を意味します。

随時改定の要件は、次のとおりです。

要件 ※1
① 固定的賃金、または賃金体系の変更があったこと。
② 変動月以後引き続く3ヵ月とも支払い基礎日数が原則として17日以上であったこと。
③ 変動月から3か月間の報酬の平均額と現在の標準報酬月額に2等級以上の差が生じたこと。

ベアを実施すれば、①の要件を満たします。 他方で、ベア実施後、②および③の要件を満たすかは人によります。たとえば、変動月以後引き続く3か月の間に欠勤している場合は②の要件を満たさない可能性があり、また、当該3か月間に全く時間外労働をしていない場合は③の要件を満たさない可能性があります。上記の要件を満たす場合、変動月から4か月目に年金事務所 に月額変更届を提出のうえ、その翌月から控除保険料を変更する必要があります ※2。
※1 すべての要件を満たすことが必要。 ※2 健康保険組合に加入している場合、健康保険組合にも月額変更届を提出。

<具体例>
前提
年齢 30歳
賃金体系 月給制
賃金締切日 末日
賃金支払日 翌月25日       

保険者 全国健康保険協会東京支部
標準報酬月額 240,000円
健康保険料 23,952円 ※労使折半
厚生年金保険料 43,920円 ※労使折半

ベア前賃金(R6.3まで)
基本給 220,000円
通勤手当 5,000円

ベア後賃金(R6.4/1付け)
基本給 230,000円
通勤手当 5,000円

支給月 欠勤日数 基本給 通勤手当 割増賃金 総支給額
R.6.5 0日 230,000円 5,000円 35,000円 270,000円
R.6.6 0日 230,000円 5,000円 37,500円 272,500円
R.6.7 0日 230,000円 5,000円 55,000円 290,000円
合計         832,500円

末締め・翌月25日払いですので、ベア後の賃金は5月から支給されます。まず、基本給が220,000円から230,000円に上昇していますので、①の要件を満たします。つぎに、3か月とも欠勤日数は0日ですので②の要件を満たします。そして、3か月間の報酬の平均額に基づく標準報酬月額は280,000円ですので、③の要件も満たします。以上から、随時改定が発生します。新たな社会保険料は次のとおりです。

健康保険料 27,944円(3,992円増)※労使折半
厚生年金保険料 51,240円(73,210円増)※労使折半

 

3.雇用保険料

ベアにより支払い額が増加すれば、雇用保険料も増加します。 雇用保険料は、支払った賃金に雇用保険料率を乗じて算出するためです。

<具体例>

ベア前賃金(R6.4支給) 225,000円
控除雇用保険料 1,350円

ベア後賃金(R6.5支給) 270,000円
控除雇用保険料 1,620円(270円増)

 

4.おわりに

ベアを実施したとき、雇用保険料は必ず増加しますが、社会保険料は随時改定の要件を満たした場合に限り増加します。ベア後に想定以上に費用が膨らんでしまったという事態を避けるため、予めその旨を留意する必要があるでしょう。

 

あわせて読みたい

ベースアップ評価料の利用実態と留意点 ~アンケートから紐解く現状と課題~
クリニック経営者を対象にベースアップ評価料の利用状況についてアンケートを独自に実施。アンケート結果や制度の留意点について解説。

医療経営に関する
お悩みはございませんか?

本郷メディカルソリューションズは医療に特化したコンサルティングサービスを展開しています。開業支援、医療法人設立、出資持分対策、医業承継・M&Aなど、様々な医療経営に関する課題解決の実績を有しています。病院・クリニックの経営に関するお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。

最新記事
19歳以上23歳未満の方の 被扶養者認定における 年間収入要件が変わりました
2025年11月26日 19歳以上23歳未満の方の被扶養者認定における年間収入要件が変わりました
賃上げ促進税制
2025年11月19日 2025年分の確定申告で活用したい「賃上げ促進税制」
2025年11月10日 今さら聞けない!医師のための年末調整の基本 4つのポイント
関連コラム
19歳以上23歳未満の方の 被扶養者認定における 年間収入要件が変わりました
2025年11月26日 19歳以上23歳未満の方の被扶養者認定における年間収入要件が変わりました
賃上げ促進税制
2025年11月19日 2025年分の確定申告で活用したい「賃上げ促進税制」
2025年09月12日 スタッフに「副業したい」と言われたら? ~副業・兼業を認める際に確認したいポイント~
カテゴリ一覧

資料請求

医業経営に関する様々なお役立ち資料や
当社サービスに関する資料をご用意しています

資料請求はこちら

ご相談・お問合わせ

医業経営に関するお悩みはございませんか?
本郷メディカルソリューションズにぜひご相談ください。

無料相談はこちら

メルマガ登録

医業経営に役立つコラムやセミナー開催情報など、
最新情報をタイムリーにお届けします。

メルマガ登録はこちら