
医療法人設立時には社会保険の設置を中心として労務でも行政手続きが必要となります。そこで医療法人設立前に労務で必要となる行政手続きを確認しておきましょう。
労働保険は、労災保険・雇用保険の総称です。労災保険は職員を雇用したときに、雇用保険は1週間の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある職員を雇用したときに適用されます。 多くのクリニックでは医療法人設立前に労働保険が適用されていることでしょう。医療法人設立時、労働保険については、所轄労基署に「労働保険名称、所在地等変更届」を、所轄安定所(ハローワーク)に「雇用保険事業主事業所各種変更届」を届出します。
社会保険は、健康保険・介護保険・厚生年金保険の総称です。法人は社会保険が強制適用となりますので、原則として医療法人設立時に社会保険を設置しなければなりません。
社会保険では、状況に応じて届書とその届出先が異なります。今回は一般的なケースとして、医療法人設立前に医師国保が適用されていたクリニックについて、理事長(院長)を医師国保(介護保険を含む)+厚生年金保険、職員を健康保険(介護保険を含む)+厚生年金保険とするケースを紹介します。
| 区分/届出先 | 医師国保組合(※) | 年金機構 |
| 法人関係 | 事業所変更届 預金口座振替依頼書 |
健康保険・厚生年金保険 新規適用届 健康保険・厚生年金保険 保険料口座振替納付申出書 |
| 理事関係 | 健康保険 被保険者適用除外承認申請書 |
健康保険 被保険者適用除外承認申請書 厚生年金保険 被保険者資格取得届 |
| 職員関係 | 資格喪失届 | 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届 健康保険 被扶養者(異動)届(必要な場合) |
※医師国保は、代表例として「東京都医師国民健康保険組合」のものを記載。
医療法人設立後に理事長(院長)の配偶者などに報酬を支給するときは、行政手続きが必要になることがあります。 たとえば、医療法人設立前から一般企業に勤務しており、そこで社会保険に加入している配偶者に、常勤の理事として報酬を支給するときは、その配偶者は社会保険上、「二以上事業所勤務者」と扱われます。
このとき、配偶者について、年金機構に「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」と「健康保険・厚生年金保険 所属選択・二以上事業所勤務届」を届出するとともに、配偶者が健康保険組合に加入しているときはその健康保険組合にも基本的に同様の届書を届出します(届書・添付書類は健康保険組合ごとに異なります)。
この手続きを行うと配偶者の勤務先にも年金機構・健康保険組合から決定通知書が届きますので、配偶者の勤務先は配偶者が法人の理事に就任したことを知ることになります。 トラブルを回避するため、配偶者は事前に勤務先に法人の理事に就任することが可能かを確認しておくのが望ましいといえます。
社会保険の保険料は、決定された標準報酬月額を標準報酬月額表にあてはめれば簡単に知ることができます。 しかし、二以上事業所勤務者の場合は、按分保険料を負担することになるため、それができません。按分保険料は、次のように計算します。
| 前提 | |
| 対象者:院長の配偶者(38歳) | |
| 勤務先①: 既存勤務先(選択事業所、組合管掌)、報酬月額425,000円 | |
| 勤務先② : 新たに設立した法人(非選択事業所)、報酬月額500,000円 | |
| 保険料率 : 健康保険料率 82/1,000、厚生年金保険料率 183/1,000 | |
| 按分保険料 | |
| 報酬月額合計 925,000円 | |
| 標準報酬月額(健康保険) 930千円 | |
| 標準報酬月額(厚生年金保険) 650千円 | |
| 勤務先① | → 健康保険料 930千円× 82/1,000×425,000/925,000=35,038円 → 厚生年金保険料 650千円×183/1,000×425,000/925,000=54,653円 ※保険料は労使折半 |
| 勤務先② | → 健康保険料 930千円× 82/1,000×500,000/925,000=41,222円 → 厚生年金保険料 650千円×183/1,000×500,000/925,000=64,297円 ※保険料は労使折半 |