そもそも「社会保険」という保険制度があるわけではありません。「社会保険」とは、一般に厚生年金保険・健康保険・介護保険を総称したもので、「国民健康保険」は含まれません。そして、法人は原則として「社会保険」を設置しなければなりません(個人クリニックでも常勤職員などを5人以上雇用する場合は「社会保険」の設置が必要です)。
医師のみなさまの中には医師国保にご加入中の方も多いと思います。社会保険に加入するときは、原則として医師国保から脱退しな
ければなりません。しかし、社会保険に加入するにあたり所定の手続きを行うことにより、医師国保の加入を続けることが可能です。社会保険に加入しつつも医師国保の加入も続ける場合、厚生年金保険・医師国保(介護保険を含む)に加入することになります(健康保険は適用除外、介護保険は40歳以上の方のみ)。
社会保険に加入する理事は、法人と「事実上の使用関係」にあると認められる理事です。具体的には「業務が実態において法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であり、かつ、その報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受け」ていれば、社会保険に加入する理事と判断されます。
<具体例>
A理事長(院長) 報酬月額 100万円 → 社会保険 〇 B理事(副院長) 報酬月額80万円 → 社会保険 〇 C理事(非常勤) 報酬月額20万円 → 社会保険 ✕ |
社会保険に加入する職員は、①常勤職員と②常勤並み非常勤職員です。②常勤並み非常勤職員とは「1週間の所定労働時間」と「1か月間の所定労働日数」が、常勤職員の所定労働時間と所定労働日数の4分の3以上である職員です。社会保険の適用拡大があれば上記を超えて社会保険の加入対象者が生じます。しかし、社会保険の適用拡大は、①常勤職員と②常勤並み非常勤職員を101人以上雇用している法人が対象ですので、小規模なクリニックは対象外です(2024年10月以降は101人以上が51人以上となります。また、任意に社会保険の適用拡大を行うこともできます)。
<具体例>
D職員(常勤職員・1週間40時間・1か月20日) → 社会保険 〇 E職員(非常勤・1週間32時間・1か月16日) → 社会保険 〇 F職員(非常勤・1週間24時間・1か月12日) → 社会保険 ✕ |
まずは個人クリニックで開業し、その後に医療法人の設立(法人成り)をご検討される先生も多いかと思います。最後に法人成り時の社会保険料負担をイメージしやすいように個人クリニックが法人成りしたときの具体例を挙げます。
<前提>
・所在地 東京都 ・院長 42歳/報酬120万円/医師国保・国民年金加入中 ・職員① 46歳/給与30万円/常勤職員/医師国保・国民年金加入中 ・職員② 32歳/給与20万円/常勤並み非常勤職員/医師国保・国民年金加入中 ・職員③ 52歳/給与10万円/非常勤職員/配偶者の被扶養者 ・法人成り:令和5年2月1日(同日付けで社会保険の設置) |
<法人成り時の社会保険証>
1.院長は医師国保のケース
健康保険料 | 介護保険料 | 厚生年金保険料 | |
院長 | ✕(医師国保) | ✕(医師国保) | 118,950 |
職員① | 29,430 | 4,920 | 54,900 |
職員② | 19,620 | ✕(40歳未満) | 36,600 |
職員③ | ✕(扶養) | ✕(扶養) | ✕(扶養) |
1か月あたりの社会保険料合計 264,420円
(法人負担) 132,210円
(個人負担) 132,210円
2.全員が社会保険のケース
健康保険料 | 介護保険料 | 厚生年金保険料 | |
院長 | 118,701 | 19,844 | 118,950 |
職員① | 29,430 | 4,920 | 54,900 |
職員② | 19,620 | ✕(40歳未満) | 36,600 |
職員③ | ✕(扶養) | ✕(扶養) | ✕(扶養) |
1か月あたりの社会保険料合計 402,965円
(法人負担) 201,483円
(個人負担) 201,483円
※上記のほか、法人のみ負担の子ども子育て拠出金があります。
※保険料率が変更された場合は保険料も変更となります。
※賞与を支給したときも保険料が発生します。
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