国分寺駅から徒歩1分の場所にある「くまさんこどもクリニック」。2017年に開業し、2022年には医療法人を設立。法人化することで、より安定した経営体制へと舵を切りました。患者さん一人ひとりに丁寧な診療を届けながら、スタッフの働きやすさにも配慮する経営姿勢は、これからのクリニックのあり方を考える上で大きなヒントになります。今回は理事長の大山先生に、法人化に至った背景をはじめ、クリニック運営に関する様々なお話を伺いました。
クリニック名 | くまさんこどもクリニック |
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診療科目 | 小児科 |
所在地 | 東京都国分寺市南町3丁目22-27 第2浜仲ビル1階 |
URL | https://kumasan-kodomo.com/ |
私はもともと、東京都立清瀬小児病院の血液・腫瘍科に勤務しており、ずっと小児医療に携わってきました。その後病院が統合され、府中市にある現在の東京都立小児総合医療センターとなり、そちらで引き続き勤務をしていました。そのような経緯があり、開業にあたってはこれまでお世話になった病院との連携や、紹介患者さんへの対応がしやすい場所を第一に考えました。以前から土地勘もありましたし、知り合いの先生方も多かったので、自然とこのエリアでの開業を選ぶことになりました。
実は開業した時から、将来的に医療法人化したいという思いは持っていました。ただ当初は「5年目くらいが目途かな?」と、漠然としか考えていませんでした。開業して間もない頃は、まだ認知度もなく患者さんが少ない状態でした。それが徐々に地域の方々に知っていただけるようになり、1年、2年と経つうちに患者さんが増えていきました。一診体制では、対応できる患者数にどうしても限りがあります。予約が取りづらい状況となり、診療制限をせざるを得ない場合もありました。そうなると患者さんから不満の声が上がったり、悪い口コミを見かけたりと、様々な課題が見えてきました。そうした状況を改善したい、診療体制を強化してより多くの患者さんにしっかり対応できる体制を整えたい―。そんな思いが、医療法人化を現実的に考えるきっかけになりました。
子供たちがリラックスできるかわいらしい雰囲気。天井にはくまさんの足跡も。
もともと辻󠄀・本郷 税理士法人さんには、開業当初から税務顧問としてお世話になっていました。クリニックの経営状況や数字を日頃から細かく見ていただいていて、その中で法人化についての話題が出ることもありました。そうした日々のやりとりの中で、法人化のタイミングや手続きについても相談するようになり、結果的にグループ内の本郷メディカルソリューションズさんにお願いする流れとなりました。特別に何か大きなきっかけがあったというよりも、信頼関係のなかで自然に進められた、という感覚に近いです。
本当に、最初から最後まで“おんぶにだっこ”という感じでした。私は医師として診療に専念していましたから、法人化の手続きについてはほとんど知識がありませんでした。そんな中、やるべきことを一つひとつ明確に教えていただき、「〇日までにこれをお願いします」といった具体的なタスク管理もしていただけたので、迷うことなく進めることができました。
厚生局や保健所への事前相談も、担当の方が代わりに動いてくださり、必要な手続きや調整をすべてサポートしていただけたので非常に助かりました。煩雑な部分をすべて任せられたことで、本業である診療に集中できたのは本当にありがたかったですね。振り返ってみても、法人化を進める過程で不安を感じる場面はほとんどなく、心理的な負担も少なく済んだように思います。
子供たちからのメッセージカードがたくさん飾られた診察室
スタッフの福利厚生面では大きな改善を試みました。法人化後は国民健康保険から社会保険に切り替え、厚生年金にも加入しました。こうした制度面の充実はスタッフにとって大きなメリットになったと思いますし、待遇の良さを実感してくれているようです。他にも、スタッフの日々の頑張りを賞与としてしっかり還元するなど、モチベーション向上につながる取り組みを継続的に行っています。スタッフは“仲間”だと思っていますし、できるだけ長く安心して働いてもらえるように、待遇の改善や働きやすい環境づくりには常に意識を向けています。
そうですね。法人化のタイミングで院内のレイアウトを改修し、二診体制をスタートしました。最初は週1回のみでしたが、状況を見ながら徐々に拡充し現在では週4日で二診体制の診療を行っています。今では予約が取りやすくなりましたし、受け入れ人数もこれまでの約1.5倍から2倍ほどに増えました。以前は「予約が取れない」「すぐ枠が埋まってしまう」という声をよくいただいていたのですが、そうした不満もかなり解消されたと感じています。
二診体制に伴い看護師や事務スタッフの人数も増えたことで、業務を分担できるようになりました。以前はスタッフ一人ひとりの負担が大きく、診療が長引いて終業が20時を過ぎることも珍しくなかったのですが、今は19時頃にはすべての業務を終えられる日が増えています。時間外労働が減ったことで、心の余裕や働きやすさにもつながっていると感じています。
もともと「子どものための総合クリニック」をつくりたいという思いがあって、曜日ごとに異なる専門の小児科医が診療を行っています。現在の体制では、月曜は感染症、火曜は循環器、水曜は腎臓、金曜は神経、そして私は血液を専門としています。それぞれが異なる分野の小児科専門医で構成されているので、基本的な小児疾患から専門的な領域まで幅広く対応することができます。法人化によって組織が盤石なものとなり、診療体制を充実させることにつながったと実感しています。
子供たちを見守るくまさん。毎年グッズを作りプレゼントする企画も実施。
自分ではそれほど“経営者目線”を意識していないのですが、個人事業主の頃は会計管理がどんぶり勘定になりがちで、プライベートとクリニックのものが混在している状況でした。法人化したことでそうした部分がすっきりと整理され、使用目的ごとに明確に分けられるようになったのは非常に良かったですね。
もともと、医師を志した当初から開業しようという思いがありました。どんな診療をしたいか、どんな組織にしたいか、すべて自分で設計できるのが開業医の大きな魅力だと感じています。そういう意味では、経営的な視点が自然と身についていったのかもしれません。月次報告で数字を見るのも楽しみのひとつで、まるで毎月の“成績表”を受け取っているような感覚があります(笑)。医療者として患者さんに向き合う一方で、クリニックの方向性を考え、育てていくことも、自分にとって大切な役割だと捉えています。
さらに充実した診療体制を実現したいと考えています。現在は週4日の二診体制ですが、最終的には土曜日も二診体制を導入し、毎日安定して二診で診療を行える体制を目指しています。地域の患者さんのニーズに、よりしっかりと応えられるようにしたいですね。
あとは、少しユニークな試みかもしれませんが、法人でキャンピングカーを購入しました。購入を決めた時はコロナ禍で、隔離スペースとして使いたいと思っていたのですが、納車までに年単位の時間がかかってしまい、届いた頃にはコロナはかなり落ち着いていました‥。今はこれを何かに活かせないか模索しているところです。プラスアルファで、休日はスタッフに貸し出すなど、福利厚生としても使えたら面白いかもしれませんね。
繰り返しになりますが、法人化の手続きについては本当に何もわからない状態でしたので、必要なことを一つひとつ丁寧に教えていただき、こちらが煩雑な手続きに追われることなく、診療に集中できたのはとてもありがたかったと思っています。自分ひとりでは到底できなかったと思うので、専門の方にしっかり伴走してもらうことが重要だと感じています。
大山先生のお話を通して印象深かったのは、医療法人化を単なる節税手段ではなく、クリニックの成長戦略の一環として捉えている姿勢でした。法人化に伴う社会保険加入の義務についても、コスト増として考えるのではなく「スタッフの満足度と定着率を高めるための待遇改善に繋がる」と、むしろプラスに受け止めていたのが非常に印象的でした。スタッフの働きがいが向上することで、提供する医療の質も高まり、それが患者さんの満足度やクリニック全体の評判にも良い影響を与えるという好循環が生まれています。人材確保がますます難しくなる医療業界において、持続可能な経営を実現されている一つの理想的なロールモデルであり、まさにこれからの時代に求められる姿勢と言えるのではないでしょうか。