今回は、2024年11月に千歳船橋駅前きしの耳鼻咽喉科を開業された、院長の岸野先生にお話を伺いました。基礎研究の最前線でキャリアを積まれてきた岸野先生が、自身の医療のあり方を見つめ直し、クリニック開業の道を選ばれた背景とは。開業に至るまでの経緯やこの1年の歩み、スタッフ採用支援の内容、今後の展望についてお話しいただきました。

| 医療機関名 | 千歳船橋駅前きしの耳鼻咽喉科 |
|---|---|
| 診療科目 | 耳鼻咽喉科・アレルギー科 |
| 所在地 | 東京都世田谷区船橋1-11-1 F医療モール3階 |
| URL | https://kishino-ent.com/ |
開業前は大学病院の耳鼻科に勤務し、臨床に携わる一方で基礎研究にも従事していました。耳鼻科医でありながら基礎研究に関わる機会は決して多くないため、貴重な経験としてやりがいを感じていました。さらにその後、別の大学で基礎研究に専念できるチャンスをいただいたため、臨床の仕事はいったん休み、研究に100%軸足を置くことを決めました。
研究の魅力は、自分の成果が他の研究者を通じて広がり、直接会うことのない患者さんにも貢献できる可能性があることだと思っています。その点に大きな意義と面白さを感じていました。ただ、ちょうどその頃にコロナ禍となり、世界中が感染症と向き合う状況の中で、「このままでいいのだろうか」と考えるようになりました。
研究は非常に重要で価値のある仕事ですが、改めて振り返ると、患者さんと1対1で向き合い、その方にとっての最善を考えながら治療にあたる臨床の仕事が、自分にとって想像以上に大きな意味があったのではと感じるようになりました。研究を通じて身についた、病態を理論的に捉え丁寧に考察する姿勢を、今度は医療者として臨床の場で生かしたい。そう思うようになりました。もともと自分は研究志向が強い人間だと思っていたのですが、考え方が大きく転換し、「開業」という選択肢に自然と気持ちが向かっていきました。

開業準備にあたってまず意識したのは、「自分はどんなクリニックで、どんな医療を提供したいのか」というコンセプトをきちんと明確にすることでした。私の場合は、これまで自分が培ってきた知識や技術、経験をしっかりと生かせるクリニックにすることを大前提に考えました。そのうえで、クリニックという枠の中であっても、幅広い診療に対応できるようにしたいという思いがあり、設備面を充実させ、自分が提供可能な医療はできるだけ揃えていこうと考えました。
一方で、「自分がやりたい医療」だけでなく「患者さんが何を求めているのか」という視点も意識するようにしました。医療的な側面はもちろんですが、待ち時間を短くする、待合室の居心地のよさ、予約の取りやすさなど、非医療の部分も含めて患者さんにとって通いやすい環境にすることはとても大切だと感じています。
クリニックや病院で受診することそのものに緊張される方も少なくありません。だからこそ、少しでもリラックスして来院していただけるよう、ある意味クリニックらしくない、柔らかく優しい雰囲気にすることも意識しました。小さなお子さんからご高齢の方まで、どの患者さんが来院しても自然になじめる空間づくりを、開業準備の最初の段階から考えていました。
耳鼻科という診療科の特性を考えると、小さなお子さんから働き盛りの世代、ご高齢の方まで、幅広い年齢層の患者さんが来院されます。そのため場所選びの際は、ファミリー層が多く暮らしているエリアであることを重視していました。いくつかの候補を検討する中で、この場所はその条件を満たしており、駅からのアクセスも良い点が魅力でした。
なかでも決め手になったのは、日当たりが良く、部屋全体がとても明るい雰囲気だったことです。先ほどお話ししたように、来院される患者さんにはリラックスして過ごしてほしいと考えていましたので、自然光がたくさん入ることで気持ちが安らぐ空間になるのではないかと思いました。立地条件だけでなく、患者さんが院内でどのような気持ちで過ごされるかを想像しながら、この場所を選びました。

本当に細かな部分までサポートしていただき、とても心強かったです。面接で確認すべきポイントを整理した質問項目やチェックシートの作成から始まり、実際の面接にも同席していただき、進行まで担っていただきました。また、採用が決まった後の通知や各種手続き、雇用契約書の締結に至るまで、実務面を一通りバックアップしていただきました。
当初は、看護師1名と事務スタッフ4名程度の採用を想定していました。ありがたいことに多くのご応募をいただきましたが、書類選考の段階である程度絞り込んだ上で面接を実施することで、限られた時間の中で効率よく進めることができました。もちろん初めての採用活動でしたので、全体を通してスムーズに進めていただけたことは本当に助かりましたし、結果として予定していた人数を無事に採用することができました。
本当にあっという間の1年でした。毎日が全力疾走の連続で、気がつけば1年が経っていたというのが率直な感想です。大変なことももちろんありましたが、たくさんの患者さんに来ていただき、その点ではいい意味で想定外でした。忙しくも充実した日々を送れていることを嬉しく思っています。
自分がやりたいと思っていた医療はある程度実現できていると感じていますが、一方で開業医として感じる難しさもあります。患者さん一人ひとりに十分に納得していただける診療を提供したいという思いと、限られた医療資源の中で、すべての患者さんに公平な医療を届けるためのルールや制約との間で、バランスを取る必要があるという点です。実際に開業してみて、医療者としてだけでなく、経営者として考えなければならないことの多さを強く感じた1年でした。
集患については、内覧会も1日のみで、広告も必要最低限しか行っていませんので、何か特別な取り組みをしたという意識は正直ありません。自分たちが「こうだったらいいな」と思う医療や、患者さんにとって心地よいと感じてもらえる環境を想像しながら、一つひとつ積み重ねてきただけだと思っています。
あえて理由を挙げるとすれば、来てくださる患者さんと、一緒に働いてくれるスタッフに恵まれたことが大きいと感じています。最初はお子さんの受診をきっかけに来院され、その後ご両親や祖父母の方まで、ご家族で受診されるケースもあり、地域の中で少しずつ受け入れていただけたという実感があります。また、スタッフがクリニックのコンセプトを理解し、アットホームな雰囲気で患者さんと接してくれていることも、継続して通っていただける大きな理由の一つだと思っています。

まずは、より多くの患者さんを受け入れられるよう、診療体制の強化に取り組みたいと考えています。最近は予約が埋まってしまう場面も出てきているため、医師の増員や院内体制の拡充を進めることで、患者さんに還元していけたらと思っています。一方で、自分の力不足を感じる場面も多く、組織のマネジメントや人材育成など、努力が必要な部分があると感じています。研鑽を重ね、足元をしっかり固めたうえで、将来的には分院展開など、次のステップも考えていきたいと思っています。
これから開業を考えている先生方へのメッセージとしては、「自分がどんな医療を提供したいのか」「どんなクリニックをつくりたいのか」を、できるだけ具体的に言語化しておくことが大切だと感じています。それが明確になれば、立地や設備、体制づくりの判断も自然と定まってくると思います。また、診療報酬や医療法についても、経営者の視点で捉えると重要なポイントが変わってきますし、人事・労務をはじめとした経営に関する知識についても、事前に学んでおく重要性を実感しました。走りながら身につけていく部分もありますが、知っているかどうかで見える景色は変わってくると思います。
研究者としての視点と、臨床医として患者さん一人ひとりと真摯に向き合う姿勢。その両方を大切にされている岸野先生の言葉からは、クリニックづくりに対する誠実さが強く伝わってきました。開業準備の中でスタッフ採用のお手伝いさせていただきましたが、その後も当グループでは税務顧問を通じて、先生のクリニック運営のサポートをさせていただいています。グループとして引き続き伴走しながら、クリニックの成長をご支援させていただけたらと考えています。