令和7年度の税制改正により「103万円の壁」が見直されました。パートタイマーを中心に就業調整の必要性が薄れ、働き方の多様化が一層進みつつあります。また、2025年6月に閣議決定された「骨太の方針」では、「多様で柔軟な働き方の推進」が掲げられており、今後はこれまで以上に副業・兼業(以下「副業等」)を希望する従業員の増加が見込まれます。そこで今回は、副業等を認めるにあたっての主な留意点について確認していきましょう。
1.労働時間は通算管理が必要
従業員が副業先でも「雇用契約」に基づいて働いている場合は、本業と副業等の労働時間を通算して管理する必要があります。(※1) 自院の実労働時間のみでは法定労働時間を超えていない場合でも、副業先での労働時間を合算すると時間外労働に該当してしまうことがあるので、注意が必要です。(※2)この点、厚労省が策定した副業・兼業に関するガイドライン(※3)では、副業先での労働時間は「従業員からの自己申告」により把握することが示されています。そのため、定期的に勤務時間の申告をしてもらう仕組み作りが求められます。
2.従業員への健康配慮は不可欠
3.情報漏洩と競業のリスクに備える
医療機関においては、患者情報や治療ノウハウなど、特に高いレベルでの秘密保持が求められます。従業員は使用者の営業秘密を漏洩してはならない義務を負っていますが、副業先で無意識のうちに話してしまうこともあり得ます。特に同業種での副業等であれば、情報漏洩のリスクは格段に高まります。秘密情報の範囲や取扱いについて、日頃から注意喚起を行うとともに、副業先が競合関係にある場合には認めないとするなど、あらかじめルールを明確にしておくことが重要です。
実態に即した制度設計を
スポットワークをはじめ多様な働き方が浸透する中、副業等を一律に禁止することは現実的ではありません。一方で、方針が曖昧なまま認めてしまうと、労務管理上のトラブルを招くおそれがあります。副業等の容認基準や申請フロー、情報管理や健康面への配慮など、実態に即したルール整備が不可欠です。適切に運用することで、収入の補完やキャリア形成といった従業員側のメリットだけでなく、人材の定着や組織の活性化といった院側の効果も期待できます。従業員の多様な働き方を尊重しつつ、自院にとっても無理のない仕組みを整えることで、安心して働ける職場環境の実現が目指せます。
注釈
※1:「業務委託契約」や「請負契約」など雇用契約によらない働き方の場合、または雇用契約による場合でも労働基準法41条に定める管理監督者・機密事務取扱者などに該当する場合は通算の対象とはなりません。
※2:割増賃金の支払いに係る労働時間の通算については、現在見直しが検討されています。(参考:「労働基準関係法制研究会」の報告書 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_48220.html)
※3:副業・兼業の促進に関するガイドライン(令和4年7月8日改訂版)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000962665.pdf
本郷メディカルソリューションズは医療に特化したコンサルティングサービスを展開しています。開業支援、医療法人設立、出資持分対策、医業承継・M&Aなど、様々な医療経営に関する課題解決の実績を有しています。病院・クリニックの経営に関するお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。